コーヒーの歴史 セカンドウェーブからサードウェーブへ

コーヒーの歴史(世界史⑤)

生活スピードと価値観の変化が「セカンドウェーブ」へとつながっていく

 第二次世界大戦が終結すると、コーヒーの需要はますます伸びていきました。

 特に戦時中に広まったインスタントコーヒーの影響は大きく、人々の生活スピードの加速に伴って手軽な飲み物として普及。

 経済成長率の高い国々ではコーヒー粉からゆっくりコーヒーを淹れるのは趣味的な行為となり、お湯を注ぐだけで簡単に淹れられるインスタントの味が広がっていきます。

 しかし一方で、コーヒーを日常的に飲むようになった人々が増えたことで、徐々に味や品質、ブランドなどを意識する傾向があらわれてきました。

 それが大きく表面化したのが、1970年代から広まったいわゆる「セカンドウェーブ」です。

 スターバックスなどの「シアトル系」と呼ばれるカフェが主導したムーブメントで、おしゃれなデザイン、テイクアウトもできる紙カップで提供されるスタイル、自分好みにカスタマイズして注文できるエスプレッソドリンクなどが主な特徴。

 コーヒーをただの嗜好品、飲料品の一種として捉えるのではなく、ライフスタイルの一部として再規定することで、他者との差別化や高価値な製品に対する関心を引き出すことに成功します。

 また、日本ではそれまで喫茶店で提供されるドリップコーヒーが一般的でしたが、シアトル系の影響によってカフェラテを中心としたエスプレッソドリンクが普及することとなりました。

「サードウェーブ」の広がりと日本の喫茶店方式

 セカンドウェーブの影響でコーヒー豆の品種や産地の違いが認識されるようになったことが、さらにその風味の違いをよりしっかり楽しむという「サードウェーブ」へとつながっていきます。

 サードウェーブは、産地や品種の違いによる風味の変化を楽しもうという考え方で、今まで深煎りに偏りがちだった焙煎度合をそれぞれの個性に合わせて変化させ、さらに一度に大量に入れるのではなく一杯ずつ丁寧に淹れるのが特徴です。

 日本では戦後、個人経営の喫茶店が一杯点てのハンドドリップ方式を採用していたためあまり目新しい感じはしませんが、実はこれは世界的には珍しい淹れ方なのです。

 いま、この喫茶店方式が逆輸入的に欧米諸国で採用され、その良さが見直されています。

 またこの動きには、20世紀後半から注目されるフェアトレードカップオブエクセレンス(COE)などの活動も大きな影響を与えているといえます。

フェアトレードとカップオブエクセレンス(COE)

 コーヒー産地はもともと植民地支配を受けていた国や紛争地域が多く、知識や物資の不足などから先進国による不平等な取引に従わざるを得ないケースが問題視されていました。

 フェアトレードは最低買取基準額を設定することで、コーヒー相場の上下による生活不安から生産者を解放し、自立を促す活動です。

 先進国、とりわけコーヒー消費量の多い国のNPOが行っているケースが多く、セカンドウェーブ後期頃からの問題意識の高まりにあわせて認知度も上がってきています。

 COEは生産者が直接製品を出品し、品質の高さを競うことのできるコンテストです。

 高価値な製品にはコンテスト後のオークションで相応の価格がつき、直接販売することで中間業者にお金を取られず生産者が正当な報酬を得ることができます。

 どちらも、安定して高品質なコーヒーをこれからも楽しんでいくために、消費者が生産者をリスペクトし、支える仕組みといえるでしょう。

 実際、そうして一般的な物より高品質なコーヒーが世界中で生産されるようになったからこそ、それを楽しもうというサードウェーブが広まってきているともいえます。

 全世界でのコーヒー消費量は、ここ半世紀でおよそ倍にまで膨れ上がりました。

 しかし、近年は「量ではなく質」「大量生産ではなく差別化戦略」の方向へと、生産も消費もその焦点が移り変わりつつあります。

 その時々の世界情勢によって変化してきたコーヒーを取り巻く環境は、いままさに何度目かの大きな分岐点を迎えているのです。

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