コーヒーの歴史 カフェの苦境と「サードウェーブ」による分岐点

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苦境に立たされている日本のカフェ

 多種多様なカフェが存在し、その利用方法や楽しみ方についても長い年月をかけて培ってきた日本。

 コーヒーやカフェが伝わったのは、現在の先進国の中でももっとも遅いほうに入りますが、今ではコーヒー豆の消費量が世界でも五本の指に入るほどのコーヒー好きの国となりました。

 しかし、そんな状況とは逆にカフェの近況はやや苦しいものとなっているようです。

 戦後、コーヒー豆の輸入が再開されて以降のカフェ(喫茶店)の数はバブル期まで増え続けていました。

 その数が最大になったのは、ドトールなどのセルフサービス式のカフェが出始め、まだまだフルサービス式の喫茶店にも勢いがあった1981年と言われており、15万店を超えるカフェがひしめいていたそうです。

 しかし、統計を見るとそれ以降はずっと右肩下がりに減り続けており、2014年には全盛期の半数以下の約7万店ほどになってしまいました。

 この原因としては、ファーストフードやレストランなど他の形態の飲食店に客が分散してしまっていること、バブルの崩壊と長く続く不況によって喫茶店やカフェなどを以前のように利用できる余裕のある人が減っていること、娯楽や価値観が多様化し相対的にコーヒーを趣味的に楽しむ層が減ったことなどが主な原因とされています。

 喫茶店の機能を奪った業態としては、飲食店のみならずネットカフェやコワーキングスペースなど、休憩やビジネスのために特化した場所貸し型のお店も含まれるはずです。

 また、戦後から続いていた個人経営の喫茶店が、(セルフサービス式のカフェに押されて経営状況が悪化したのはもちろん)経営者の引退と後継者の不在によって閉店するタイミングに入っていることも大きいでしょう。

 個人で喫茶店を経営してみたいという若い人はけして少なくないものの、需要と供給のバランスや初期投資の大きさから実現するケースは少なく、一年に増える数が減る数を大きく下回ってしまっているのです。

逆輸入された喫茶店文化が日本のカフェを救う?サードウェーブの到来と影響

 では、日本のカフェ文化はこのまま不況や少子高齢化によって衰退していくのでしょうか。

 いいえ、実はそうとも言い切れません。

 というのも、今世紀にはいり次のムーブメント、サードウェーブが世界的に広まりつつあるからです。

 セカンドウェーブでは、高品質なコーヒーに注目はしていたものの主役はエスプレッソ系ドリンクであり、焙煎も自然と深煎りが主流となっていました。

 しかし、近年のスペシャルティコーヒーカップオブエクセレンス(COE)などの盛り上がりなどとあわせてはじまったサードウェーブでは、コーヒー豆の特徴にあわせて焙煎度合をかえ、一杯ずつ丁寧にドリップする一杯点てのドリップコーヒーがメインとなります。

 この特徴、特にハンドドリップの方式は、日本の喫茶店のやり方が逆輸入的に欧米に広まっていったのだと考えられています。

 一度はカフェによって追いやられた喫茶店が、いま再度、世界からの注目を集めているのです。

 セカンドウェーブはスターバックスなどシアトル系のチェーン展開をするカフェによって日本に広まっていきました。

 今回のサードウェーブについても、アメリカ・カリフォルニア州から進出してきたブルーボトルコーヒーが大きな象徴になっているとはされています。

 しかしシアトル系のときとは違い、サードウェーブは海外資本のチェーン店ではなく、昔ながらの喫茶店が中心となって日本中に広まっていこうとしています。

 近年ではインターネットなどで情報を手に入れやすくなったこともあり、今まで以上にスペシャルティコーヒーや農園まで指定した製品が注目され、カフェでもより詳細な情報を提供するようになってきています。

 焙煎技術や科学的な分析が進んだことなどから、深煎りばかりだった焙煎度合も見直され、品種によってはかなり浅煎りでもおいしいコーヒーが販売されるようになってきました。

 一杯点てのハンドドリップについてはまさに何十年にも及ぶ経験と知識の積み重ねがありますので、他国のサードウェーブコーヒーよりもアドバンテージがあると言えるでしょう。

時代を映し、変化し続けるコーヒーの楽しみ方、コーヒーのある風景

 消費者側のコーヒーに対する姿勢も変わりつつあります。

 以前はコーヒーの味にこだわりを持つのは、いわゆる「コーヒーマニア」的な人がほとんどで、一般的にはあまり深入りする人はいませんでした。

 しかし、スターバックスなどの登場で、コーヒーを味わうことが明るくスタイリッシュなものとして受け入れられたこともあり、若い人や女性などの中でも興味を持つ人々が増えてきているのです。

 コンビニでのカップコーヒー販売が大ヒットとなるなど、まだまだ手軽さが求められる状況ではありますが、逆に手軽に飲めるコーヒーにも一定の味わいを求めるようになってきていると言えるでしょう。

 さらに、かつて喫茶店に通った世代が定年をむかえ、再びカフェに足を向け始めてもいます。

 特に団塊ジュニアの世代の中には、自分でカフェを始める人も少なくないようです。

 コメダ珈琲や星乃珈琲店など、企業によるフルサービス型のチェーン店も需要を見込んで出店攻勢をかけてきています。

 いま、にわかにカフェに対する喫茶店の逆襲が始まろうとしているのです。

 そして、もちろん外で飲むコーヒーだけではなく、自宅で淹れて楽しむ人々も着実に増えてきています。

 お店には以前よりも格段に種類が増えてデザインも良くなった家庭用コーヒー器具が並び、その選び方や使い方についてもインターネットでちょっと検索をかければ無数に見つけることができます。

 コーヒー豆はかつてないほど多種多様な商品が、100gからというごく少量の単位ごとに購入できるため、個人でも世界中のいろいろなコーヒーの中から実際に味わいつつ好みのものを探していくことが可能です。

 インターネットや専門店では生豆も簡単に購入することができるようになったため、家庭で自家焙煎にチャレンジするためのハードルもさがりました。

 西洋文化と共に広まり、戦争によって中断されたものの逆にそれをきっかけとして独自進化を遂げた日本のコーヒー文化。

 主に経済的な理由から難しいターニングポイントに差し掛かってはいますが、それすらもひとつのきっかけとして、現在も進化を続けているのです。

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