変化する喫茶店① 高級喫茶店型
時代が進み日本が高度成長期に入ると、人々の生活は次第に慌ただしくなっていきます。
都市部のビジネスマンなどはもちろん、主婦や学生たちもパートや習い事、塾などに忙しく飛び回るようになり、自宅でゆっくりコーヒーを淹れたり喫茶店で時間を忘れて趣味に没頭する姿も徐々に見られなくなっていきました。
かわりに、予定と予定の間の隙間時間をつぶしたり、ビジネスにカフェを使用する、というケースが増え、お店側も従来の「喫茶店」の様式から客の求めるスタイルへと変化していきます。
そのひとつの方向性として、「喫茶室ルノアール」などに代表される高級喫茶型店舗があげられます。
コーヒー一杯あたりの価格が一般的な喫茶店よりかなり高額に設定されている代わりに、隣の席との間が広くあいたゆったりとした座席を長時間利用することができるのが特徴で、打ち合わせや営業の場としてビジネスマンたちから絶大な支持を受けました。
なかには、外回り中などにこっそり抜け出してきて、数時間居眠りをしていくなんて使い方をしていた人も少なくなかったとか。
現在ではパソコンなどの充電用に電源を使用できたり、無線LANの環境を整えるなど、今の働き方にあわせた進化を遂げているようです。
変化する喫茶店② セルフサービス式
逆に、廉価で利用しやすい方向に特化したお店もあります。
1980年代から急速に増えた、「セルフサービス式」のカフェです。
客が入店後すぐに席につき、お店の人が各席まで注文を取りにきたりできあがったら席まで運んできてくれたりするタイプのお店を「フルサービス式」と呼びますが、「セルフサービス式」は席に着く前にカウンターでコーヒーを買い、その後店内のテーブルや席を利用する方式です。
セルフサービス式の最大の利点は、店員が少なくても注文や会計で待たされることがあまりなく、気軽に短時間で利用できることです。
当時、この様式をいち早く取り入れ大成功したのがドトールコーヒーでした。
ドトールがセルフサービス式の一号店を出店したのは、1980年のこと。
コーヒー一杯180円という低価格と、フルサービス式の喫茶店にはない使いやすさから幅広い層に支持を受け、それからわずか10年で300店舗、30年で1000店舗以上のチェーン店を国内外に次々と展開していきます。
高級喫茶型とは真逆の戦術ですが、やはり簡単な打ち合わせや休憩などに利用されているようです。
変化する喫茶店③ スターバックスと「セカンドウェーブ」
そして1996年、ドトールなどによってセルフ式のカフェが一般的になっていた日本に、セカンドウェーブのうねりとともに、ついに「スターバックス」がやってきます。
コーヒー界のファーストウェーブは、コーヒー豆が大量生産・流通するようになり、廉価で一般的に飲まれるようになった動きでした。
この波によって世界中で一般的な飲み物として認識されるようになったコーヒーですが、これはまだ大量生産、大量消費の時代であり、品質や味はあまり重視されていませんでした。
(独自進化を遂げていた戦後の日本の喫茶店は、世界的には例外的な存在だったといえます)
それに対し、よりおいしく、よりスタイリッシュに、コーヒーの存在を強く意識する方向へ舵を切ったのがセカンドウェーブです。
これは1980年代に、アメリカワシントン州・シアトルでスターバックスが打ち出したコンセプトが原点とされており、その方針に賛同する(あるいは方式を模倣する)カフェを「シアトル系カフェ」と呼びます。
日本でのスターバックス開店は、前述の通り1996年。
同じシアトル系大手のタリーズは、翌97年にオープンしました。
シアトル系の特徴は、「カフェラテをメインとするエスプレッソメニューが中心」「店内だけでなく紙コップでテイクアウトすることができる」「内装やメニュー、雰囲気など全てをスタイリッシュにデザインしている」ことなどがあげられます。
また多くのお店では、エスプレッソの量(ショット)を調整したりシロップやミルクを変更することで、自分の好みに合ったドリンクへカスタマイズして注文することもできます。
スターバックスが自分たちのお店を「自宅でも職場でもない、第三の空間(Third Place/サードプレイス)」と表現しているように、味わいや楽しみ方をカフェ側が全て定めるのではなく、大枠やコンセプトだけを設定してその中でお客さんが自由にくつろいだり仕事をしたり時間をつぶしたりできる設計になっているようです。
みんなと同じではなく自分にとって好ましいものを追求する、という現代の価値観にマッチしたスタイルは、かつての日本の喫茶店スタイルを過去のものとし、いまやもっともメジャーな形態となっています。